東京大学大気海洋研究所共同利用研究集会
「2016年度海洋生態系モデリングシンポジウム」
開催概要
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日程
平成28年 11月17日(木) 09:30-17:30 17:30-19:30 懇親会 11月18日(金) 09:00-12:20 - 場所
東京大学大気海洋研究所 2F 講堂 〒277-8564 千葉県柏市柏の葉5-1-5 TEL 04-7136-6009 - コンビーナー
橋岡 豪人(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)
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大気海洋研対応者
伊藤 幸彦(東京大学大気海洋研究所) - 開催趣旨・概要
本研究集会では、我が国の海洋研究各分野で高度化が進められている様々な生態系モデルとそれに関わる知見を、「地球科学としての海洋生態系モデリング」というキーワードの元に集結し、成果発表と議論を通してモデル開発者、ユーザー、非モデルユーザーを含む分野内、分野間連携を深め、次世代モデリングへの展開の基礎とすることを目的としています。
本年は、海洋学においても生物多様性研究への需要が高まる中で、従来の枠組みを越えた、進化生態学、数理生態学、生物地理学等の学問分野との知見の融合を目指し、琉球大学の久保田康裕先生による「進化生態学における生物多様性研究」についての基調講演を予定しております。また特別講演として、国際的な海洋鉄循環モデル相互比較計画に参画する、電力中央研究所の三角和弘さんによる「海洋鉄循環モデルの現状と課題」および、進化生態学の分野において数理モデルによる研究を進められている東大大気海洋研究所の入江貴博さんによる「生活史モデリングの基礎と応用」についてのご講演を予定しております。
プログラム
-11月17日(木)-
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9:30–9:45
開会挨拶・趣旨説明 橋岡 豪人(JAMSTEC-RCGC)
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9:45–10:45
特別講演1
三角 和弘 (電力中央研究所)
「海洋鉄循環モデルの現状と課題」
(11MB) -
10:45–11:45
特別講演2
入江 貴博 (東大 大気海洋研究所)
「生活史モデリングの基礎と応用」
- 11:45–12:45 休憩(昼食)
- 12:45–14:00 ポスター発表
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14:00–14:30
西川 悠 (JAMSTEC-CEIST)
「イワシ類を対象としたend-to-endモデルの紹介」
(21MB) -
14:30–15:00
野口 真希(JAMSTEC-RCGC)
「安定同位体比から物質循環を紐解く」 -
15:00–15:30
坂本 天(東大 大気海洋研究所)
「ダウンスケーリングによる低次生産過程も含めた大槌湾のモデリング」 -
15:30–15:40 休憩
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15:40–16:10
渡邉 英嗣(JAMSTEC-IACE)
「北極海生態系モデリングの現状と課題:FAMOSプロジェクトの紹介」
(2MB) -
16:10–16:40
増田 良帆(北大 地球環境)
「海洋大循環モデルを用いた生物多様性研究の方向性」 -
16:40–17:10
Rubio Carmen Garcia-Comas (JAMSTEC-RCGC)
「Using observational data to explore the role of functional traits on plankton community structuring and functioning」 - 17:10–17:30 議論
- 17:30–19:30 懇親会
一般講演
-11月18日(金)-
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9:00-10:20
基調講演
久保田 康裕 (琉球大学 理学部)
「進化生態学における生物多様性研究:
マッカーサーのパラドクスを紐解いて惑星スケールの群集集合メカニズムを考える」 - 10:20–11:20 ポスター発表
- 11:20–12:00 総合討論
- 12:00 閉会
講演要旨
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基調講演
「進化生態学における生物多様性研究:
マッカーサーのパラドクスを紐解いて惑星スケールの生物多様性研究を考える」
講演者:
久保田 康裕
(琉球大学 理学部 教授)
要旨:
進化生態学の生物多様性研究において、「島の生物種数の平衡理論」と「生態学的ニッチ」の概念は、重要な役割を果たした。これらの理論・概念に基づいて、現代的な進化生態学の枠組みを整えたのがマッカーサーである。島をモデルシステムとした種多様性の平衡理論は、種の中立性を暗示的に仮定し、大陸からの移入率と島における絶滅率に応じて、種数が動的平衡になることを示す。一方で、マッカーサーは、生態学的ニッチの類似限界や多種共存機構の研究を体系的に行った:その成果は彼の著書「地理生態学」の大部分を占める形でまとめられている。決定論的な種のニッチ集合則は、確率論的な分散集合と矛盾する概念なので、彼の研究アプローチは“マッカーサーのパラドクス”として知られている。近年、ハベルが提唱した生物多様性の中立理論は、“マッカーサーのパラドクス”を紐解く機構論的モデル(統計モデル)と捉えることができる:中立モデルは、生物群集の形成機構におけるニッチ集合と分散集合の相対的重要性を定量する枠組みを提供している。このような解析枠組みの進展に加えて、最近では様々な生物多様性情報(生物の地理分布、分子系統、機能特性、化石情報など)が利用可能になりつつある。したがって、今日の進化生態学は膨大な実データを用いて、生物多様性の歴史的起源から生態学的維持に関わる諸プロセス(種分化、絶滅、分散、種のソーテイング)を統合的に解析できる状況にある。本講演では、進化生態学の生物多様性研究の概念史を説明する。そして、生物群集の中立モデルの詳細を解説し、生物多様性を分析する上での「基本モデル」と「帰無モデル」の有用性を示す。さらに、中立モデルを拡張する上で有望な視点についても考察する。最終的に、分類群を横断した惑星スケールでの生物多様性研究の可能性について議論したい。 - 特別講演1
「海洋鉄循環モデルの現状と課題」
講演者:
三角 和弘
(電力中央研究所 環境科学研究所 主任研究員)
要旨:
鉄は高栄養塩-低クロロフィル海域において基礎生産を制限し、窒素制限海域においても窒素固定生物の制限している、海洋の物質循環や基礎生産を理解する上で重要な元素である。近年では多くの地球システムモデルが鉄循環を考慮しているが、その定式化や用いている境界条件は様々で、一言に「鉄循環を考慮している」と言ってもその再現性や変化に対する応答は大きく異なる。各モデル開発グループの主義・主張が鉄モデルの定式化や境界条件の違いに現れているのであれば、研究がされているという意味で健全であるが、実際には発展途上にある鉄モデルのどの世代のものを採用しているかに依るところが大きい。鉄は他の主要な栄養塩と比べ測定が難しかったために、三次元のモデル開発が始まった2000年の時点では全球で5000点ほどのデータしかなかった。限られたデータに基づく鉄循環像から最初の三次元モデルが作られ、その後、急速に増える観測データからの知見を五月雨式に反映することで改良が加えられてきた。鉄循環そのものを研究対象としていないモデル開発者にとって、鉄循環は必要であるが手法をキャッチアップすることは負担であり、そのために異なる世代の鉄モデルが各グループの地球システムモデルに採用されていると考えられる。本発表では、観測データの集積がどのような鉄循環像の違いを生んできたかを述べ、それに伴ってモデルがどのように改良されてきたかについて述べる。それを踏まえて、昨年実施した海洋鉄モデルの相互比較の(Tagliabue et al., 2016)について述べ、これからSCOR (Scientific Committee on Oceanic Research)のワーキンググループで実施予定の取り組みについて述べる。 -
特別講演2
「生活史モデリングの基礎と応用」
講演者:
入江 貴博
(東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系
海洋生物資源部門 資源解析分野 助教)
要旨:
生態学における生活史のモデリングは、多くの場合、個体数の時間変化率を死亡率や出生率を独立変数とした関数として書き下すことでなされる。これは、個体群生態学における興味の中心的対象である個体群の成長速度や定常状態での個体群サイズが、一般にこれらの生活史パラメータに依存するためである。また進化生態学では、遺伝子型ごとの絶対適応度を計算する上で、個体の生活史を無視することができない場合も多い。本講義では、まず①生活史形質の定義、②一種系ダイナミクスの一般定式化、③死亡率と出生率の定義、④個体群成長率や適応度と生活史の関係性について述べた後に、自然選択によって最大化される適応度の尺度は、仮定される選択レジームによって異なることを示した上で、進化生態学においてR0やrといった古典的適応度とESSをもたらす侵入適応度を使い分ける際に考慮される生態学的背景についておおまかに説明する。次に、死亡率や出生率が個体の齢あるいは成長段階に応じて変化する場合の離散時間モデルと連続時間モデルを紹介する。さらに、空間構造のある個体群(メタ個体群)のモデリングについても少しだけ述べる。最後に、有限の資源を成長・繁殖・防御といった要素に配分することで、死亡率と出生率の間にトレード・オフを仮定した一連のモデルについて述べる。講義の後半では、これらの生活史モデルを具体的な課題へと適用した研究例を紹介する。
ポスター発表(受付順)
- Bingzhang Chen (JAMSTEC)
「海洋性植物プランクトンの生産と多様性に関する環境適応性の影響 」 - 森田健太郎(水産研究・教育機構 北海道区水産研究所)
「父母性効果を加えたホッケの再生産モデル」 - 阿部真己(いであ株式会社)
「大阪湾におけるイカナゴ資源量・漁獲量の把握と将来予測への取り組み
~陸と海の相互作用の定量的な把握を目指して~」 - 山北剛久(JAMSTEC)
「東日本大震災の沿岸生物多様性への影響
~分布推定と形質情報による評価~」 - 中村有希(東大院・大気海洋研)
「CMIP5モデルを用いた温暖化が海洋基礎生産へ及ぼす影響の解析」 - 笹井義一 (JAMSTEC)
「Impact of physiological flexibility of phytoplankton on modeled primary production in the western North Pacific」 - 小柳津瞳(東大院・大気海洋研)
「Individual-based model と耳石解析データを用いたサンマの成長と回遊パターンの評価」
(2MB) - 干場康博(東大・大気海洋研)
「低次海洋生態系モデル(3-D NSI-MEM)と遺伝的アルゴリズム(μGA)を用いたデータ同化」 - 石川和雄(東大院・大気海洋研)
「Successive recruitment of age-0 jack mackerel (Trachurus japonicus) in coastal areas along the Kuroshio」 - 山本彬友(東大・大気海洋研)
「climate-ocean carbon cycle feedbackの再検討」 - 渡辺路生(JAMSTEC)
「鉄・リン循環を考慮した海洋生態系モデルの地球システムモデルへの組み込み」
参加・発表申込み
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申し込み先: シンポジウム事務局
cesd_eventstaff(a)aori.u-tokyo.ac.jp
((a)を@に変換して送信してください。) -
申し込み期日
・口頭発表 10月10日(月)(終了致しました)・旅費支給 10月14日(金)(終了致しました)・懇親会 11月11日(金)(終了致しました)・ポスター発表 直前まで受け付けます。 - 必要事項
・氏名
・所属
・メールアドレス
・懇親会(参加/不参加)
・旅費支給の希望(有/無)(予算の中で対応させていただきます。)
---以下は発表希望者のみ---
・発表希望(なし/口頭/ポスター/どちらでも)
・発表演題、著者名、著者所属(それぞれ和文、英文で)
シンポジウムでの発表は、必要事項を記載の上、事務局までメールでお申し込みください。
懇親会 (11/17)も、準備のため申し込みをお願いしております(当日参加も可能です)。旅費支給をご希望の方も、事務局までお知らせください。懇親会は大気海洋研究所内での開催を予定しています。