古環境変動分野
古海洋・古気候の復元と解析、そのモデリングを通して、古環境に関わる物質動態や変動機構の解明を行います。
本分野では主に最近200万年間の気候変動や表層環境変動について、地球化学的手法を用いて復元するとともに、大気−海洋結合大循環モデルであるMIROCや物質循環モデル、それに表層の荷重再分配に伴う固体地球の変形(GIA)モデルなどを組み合わせることにより、表層環境システムについての理解を深める研究を進めています。
対象としているフィールドや試料は、日本国内外のサンゴ礁、気候システムで重要な役割を果たしている西赤道太平洋暖水プール近海、モンスーン影響下の陸上湖沼および海底堆積物、過去の降水を記録している陸上の鍾乳石や木材試料、南極氷床コアや氷床に被覆されていない地域の岩石/堆積物試料、アンデス山脈や日本国内の山地などです。
国際プロジェクトにも積極的にかかわっており、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や地球圏—生物圏国際協同研究計画(IGBP)、古環境変遷計画(PAGES)、統合国際深海掘削計画(IODP)や国際地球科学対比計画(IGCP)などに参画しています。
現在の主な研究テーマ
・モンスーン気候地域の古気候変遷に関する研究
地球上の多くの人口が集中するインドーアジアモンスーン地域の気候変動復元について、ネパールにある国内最大の湖の堆積物(ララ湖)を使ったモンスーン強度復元や、インド西部から採取された化石魚類の耳石の化学分析による水温復元、インド洋—南シナ海—東シナ海沿岸のサンゴ骨格の微量金属および酸素同位体比を用いた水温および水循環変動復元を行っている。得られたデータを各時間断面によって考察し、AOGCMと比較検討することにより、モンスーン変動についての理解を進める研究を行っています。
・海水準変動
地球温暖化に伴いもっとも危惧されるのは氷床融解に伴う海水準上昇です。過去の海水準変動の記録を精度よく復元するためには、地球化学的なデータの収集のみならず、固体地球の変形を考慮した地球物理学的な検討も重要です。私たちは氷期の旧氷床域から離れた地域のサンプルを採取し、質量分析装置を用いた分析を行うことで過去の変化のタイミングと規模を復元するとともに、GIAモデルを用いてグローバルなシグナルである氷床量相当海水準変動としてデータを求めています。最近は、イギリスのオックスフォード大のグループとともに氷期の終焉にともなう海水準の上昇と温室効果ガス(二酸化炭素分圧)の変化のタイミングの復元などを報告しました。
・南極氷床変動の安定性に関する研究
南極氷床は、海水準のみならず周辺の海洋への影響を通じて全球的な気候システムの中で重要な役割を担っています。そこで私たちは、陸上の岩石中に、宇宙線によりわずかに生成される放射性核種を用いた年代決定法の開発を行い、東南極氷床の過去の融解史を復元しました。また、海洋堆積物試料の特定有機化合物を高速液体クロマトグラフにより抽出し、加速器質量分析装置による定量を行うことで、西南極氷床ロス海の過去の氷棚変化について詳細に復元する研究を行っています。
地球表層環境を保存している様々な試料と分析のための装置
a. サンゴ
b.サンゴ化石
c.南極の迷子石
d. 巨木試料
e.海洋堆積物
f. レーザー/高分解能 誘導プラズマ質量分 析装置