2019年1月11日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 岩崎渉准教授らが発表を行い、
記事が掲載されました。
掲載内容
メタゲノムとエピゲノムを融合した「メタエピゲノム」解析の提唱と実証 ~環境細菌叢が持つゲノム修飾機構の広大な未開拓領域の解明へ~
近年、細胞の癌化や分化を制御する機構としてエピジェネティクス(注1)が注目を集めており、哺乳類ではヒトやマウス等をモデルにエピゲノム解析(注2)が盛んに行われています。一方で、細菌・古細菌といった原核生物においてもこのエピジェネティクスという現象が起きていることが知られており、さまざまな分離培養株を用いた研究が古くから進められてきました。しかしながら、環境中の原核生物の大半は培養が難しく、原核生物の主なエピジェネティクス機構であるDNAメチル化修飾の実験的観測が困難なために、環境細菌叢におけるDNAメチル化修飾の普遍性や多様性は全く不明でした。本研究において、東京大学の平岡聡史大学院生(現:海洋研究開発機構 特任研究員)、按田瑞恵特別研究員、岩崎渉准教授と、京都大学、遺伝学研究所との共同研究チームは、第3世代シーケンサーと呼ばれる1分子DNAシーケンサーを活用することで、環境細菌叢のDNAメチル化修飾を観測する新たな手法「メタエピゲノム解析」を提唱し、その有効性を実証しました。本手法を用いて滋賀県の琵琶湖に生息する淡水細菌叢を解析したところ、多様なDNAメチル化モチーフ配列を検出することに成功し、さらに驚くべきことに、その約半数は新規のモチーフ配列であることが分かりました。加えて、バイオインフォマティクスによるDNAメチル化酵素遺伝子の予測と大腸菌を用いた遺伝子組み換え実験を行い、それらのモチーフ配列を特異的に認識する新規のDNAメチル化酵素を複数発見しました。原核生物は海洋、土壌、腸内など、地球上のあらゆる環境に存在しています。今後、メタゲノム解析(注3)に加えてメタエピゲノム解析を進めていくことで、原核生物のエピジェネティクスが駆動する生理・生態メカニズムの解明に繋がっていくことが期待されます。
発表者
平岡 聡史(研究当時:東京大学 大学院新領域創成科学研究科 博士後期課程)※1
岡崎 友輔(研究当時:京都大学理学研究科 博士後期課程)※2
按田 瑞恵(東京大学 理学系研究科 特別研究員/日本学術振興会 特別研究員PD)
豊田 敦(国立遺伝学研究所 特任教授)
中野 伸一(京都大学 生態学研究センター 教授)
岩崎 渉(東京大学 生物科学専攻 准教授/新領域創成科学研究科 准教授/大気海洋研究所 准教授)
※1:現:海洋研究開発機構(JAMSTEC) 特任研究員
※2:現:日本学術振興会 特別研究員PD(産業技術総合研究所)
発表雑誌
雑誌名:Nature Communications(1月11日付オンライン版)
対象論文:Metaepigenomic analysis reveals the unexplored diversity of DNA methylation in an environmental prokaryotic community.
著者:Satoshi Hiraoka, Yusuke Okazaki, Mizue Anda, Atsushi Toyoda, Shin-ichi Nakano, and Wataru Iwasaki
DOI番号:10.1038/s41467-018-08103-y
論文URL:
https://www.nature.com/articles/s41467-018-08103-y
用語解説
注1 エピジェネティクス:
DNAに対する後天的な化学修飾のこと。ゲノムの塩基配列自体には影響を与えないが、遺伝子の転写発現等の制御や制限修飾系に関わることが知られている。
注2 エピゲノム解析:
どのような種類のエピジェネティクスがどのようにゲノム中に分布しているのかを調べる解析手法。例えばヒトゲノムの解析から、DNAメチル化修飾が集積している領域や全く修飾が起きていない領域がゲノム上で混在していることが知られており、各領域での遺伝子の転写発現量の変化が疾患の発症等に結びつく例が多く報告されている。
注3 メタゲノム解析:
多様な原核生物種を含む細菌叢から直接DNAを抽出し、ゲノムシーケンシングと情報解析を行うことによって、分離培養を経ることなくゲノム解析を行う手法。
詳しくはこちらをご覧下さい。
関連リンク
・大気海洋研究所プレスリリース(2019年1月11日)
・東京大学大学院理学系研究科プレスリリース(2019年1月16日)