2020年4月20日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 横山祐典教授らが発表を行い、
記事が掲載されました。



掲載内容
西南極タイプの氷床の融解には500年ほどしかかからない
~過去に起こった温暖化と北欧氷床の急激な融解、それに海洋循環との関係~


発表のポイント
◆ 現在進行中の温暖化での融解がもっとも危惧されている氷床は、海底に直接着底している西南極氷床です。しかし、このタイプの氷床がどのくらいの期間で融解するかはモデルによってさまざまでした。
◆ 今回、これと類似の氷床である北欧氷床の融解記録を詳細に復元し、温暖化による融解開始で、500年もあれば完全に消失し、その影響が周辺氷床にも及ぶことを明らかにしました。
◆ 氷床融解によってもたらされた淡水が海洋大循環に大きな影響を与えなかったという重要な知見を提唱しました。氷床融解と海洋循環との関係について再考を促す貴重なデータとなり、これらを用いて氷床モデルや気候モデルの将来予測の精度向上に役立てることが可能となります。


発表概要
現在進行中の温暖化でもっとも危惧されている事象のひとつは、南極やグリーンランドの氷床(図1)融解による海面上昇です。特に西南極氷床(注1)は融解すると世界の海水準を3-5m上昇させる淡水を蓄えていますが、陸上ではなく海底に直接着底しているため(図2)温暖化に伴う影響をより大きく受け、モデルによると将来の温暖化が継続すると完全になくなるとされています。しかし、どのくらいの期間で融解が起こりうるのか、これまでにデータに基づいた議論はなされていませんでした。

そこで今回、東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授は、ノルウェーのベルゲン大学のBrendryen博士らと共同で、かつてヨーロッパに存在した“西南極タイプ”とも言える海底に着底した北欧氷床の融解について加速器質量分析装置を用いた詳細な分析を行い、その融解の規模とタイミングの復元を行いました。その結果、世界の海水準が約5m上昇した融解は、氷期が終わって急激な温暖化が引き起こされたタイミングで生じ、一旦融解が開始した氷床は、わずか300-500年ほどで解け終わったことがわかりました。また、当時は世界の気候を安定化させるのに重要と考えられている海洋大循環(注2図3)が安定して流れていたことがわかっており、氷床融解により淡水がもたらされることで弱化すると考えられる循環が安定していたことを始めて明らかにしました。

これらのことは従来提唱されたモデルにより異なる西南極タイプの氷床融解の期間についてデータに基づく知見を提示し、将来の予測の高精度化に役立ちます。また、これまでの見解とは異なり、氷床融解によってもたらされた淡水が海洋大循環に大きな影響を与えなかったという重要な知見も提唱しました。


発表雑誌
雑誌名:
 「Nature Geosciences」

対象論文:
 Eurasian Ice Sheet collapse was a major source of Meltwater Pulse 1A 14,600 years ago.

著者:
 Jo Brendryen, Haflidi Haflidason, Yusuke Yokoyama, Kristian A. Haaga, and Bjarte Hannisdal



用語解説
・注1 西南極氷床:
南極横断山脈を挟んで西側の地域。西南極氷床が全て融解すると世界的に海水準を5m以上上昇させるほどの氷を蓄えています。ほとんどの部分が海底に直接着底しているために、海洋循環や温暖化による影響を受けて、とけやすいと考えられています。

・注2 海洋大循環:
北大西洋を起源とした一周が約1,000年ほどの循環。海水の塩分と温度差によって駆動される。熱塩大循環とも呼ばれています。現在北大西洋で毎秒約2000万km3の海水が沈み込むことで、高緯度に熱を運び、温暖な気候が保たれていると考えられています。



添付資料


図1:約2万年前の直近の氷期に北半球に存在した氷床の位置。南極氷床と同程度の厚さの氷床が北米にも北欧にも存在していた。今回の研究対象としている北欧氷床の位置(上図赤枠:Yokoyama et al. 2019 Oceanographyの図を改変)。それぞれの氷床の名称(下図:Denton and Hughes 1981を改変)。



図2:南極氷床と氷床底の基盤高度(Bedmap 2: Fretwell et al. 2013を基に作図)。西南極のほとんどは水色で氷床が海底に直接着底していることがわかる。



図3:海洋大循環の簡略図。Xは北大西洋と南極海で見られる海水の沈み込み地点。赤の楕円は北欧氷床が存在していた地点。毎秒2000万km3という大量の塩分の高い海水が、北大西洋で沈み込むことにより地球規模の循環が形成されている。茶色は表層の流れ。青色は深層水の流れ。この大循環によって地球の気候がマイルドに保たれているとされている。




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関連リンク

大気海洋研究所 プレスリリース(2020年4月20日)