2020年7月21日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 佐藤 正樹教授らが発表を行い、
記事が掲載されました。



掲載内容
夏季アジアモンスーン降水の将来変化: 台風・熱帯擾乱活動の重要性


発表のポイント
◆ 世界の人口が集中する、日本を含むアジアモンスーン域(注1)における、夏季の降水量の将来変化について、台風などの熱帯擾乱活動の将来変化に注目し、高解像度でかつ長期の気候シミュレーション出力を解析しました。

◆ 降水量の将来変化には地域特性があり、モンスーントラフ(注2)と呼ばれるインド北部・インドシナ半島から北西太平洋まで東西に延びる帯状域で、顕著な増加が予測されました。

◆ 高解像度シミュレーションによって台風などの熱帯擾乱(注3)の活動度を調べた結果、これらの活発化がモンスーントラフ上の降水量増加の重要な要素であることが分かりました。


発表概要
東京都立大学大学院都市環境科学研究科の高橋 洋 助教、海洋研究開発機構の那須野 智江 主任研究員および東京大学大気海洋研究所の佐藤 正樹 教授らの共同研究チームは、全球の雲の生成・消滅を経験的な仮定を用いずに物理法則に従い直接計算できる全球雲システム解像大気モデル「NICAM」を用いた現在気候実験と将来気候実験の出力結果を用いて、日本を含むアジアモンスーン域における、夏季の降水量の将来変化について詳細に解析しました。その結果、インド北部からインドシナ半島、西太平洋まで東西に延びる帯状のモンスーントラフと呼ばれる領域で顕著に降水量が増加するという予測結果が得られ、台風を含む熱帯低気圧活動の将来変化と関連していることが明らかになりました。

温暖化時には、大気の水蒸気量が増えることで、降水量が全般的に増えることが知られていますが、地域スケールでは、各地域に固有の要因の影響も大きく、将来変化は一様ではありません。従来の研究では、モンスーン西風(熱帯モンスーン域での対流圏下層の西風)との関係が重要視されてきました。本研究では、モンスーン西風の風下側(東側)から伝播してくる熱帯擾乱(台風など)の活動度の将来変化が、アジアモンスーン域の降水量変化の重要な要素であることを明らかにしました。


発表雑誌
雑誌名:
 「Journal of Climate」

対象論文:
 Response of the Asian Summer Monsoon Precipitation to Global Warming in a High-Resolution Global Nonhydrostatic Model

著者:
 高橋洋1、神沢望1、那須野智江2、山田洋平3,2、小玉知央2、杉本志織2、佐藤正樹3,2

 1. 東京都立大学、2. 海洋研究開発機構、3. 東京大学大気海洋研究所


用語解説
・注1 アジアモンスーン域:
気候学では、一般的に、南アジア、東南アジア、北西太平洋、東アジアを含めた地域を指す。日本は東アジアに含まれる。そのうち、南アジア、東南アジア、北西太平洋域を、熱帯アジアモンスーン域と呼ぶ。

・注2 モンスーントラフ:
台風などの熱帯擾乱活動が活発な領域であり、平均場で見た場合の降水帯とも一致する。北西太平洋では、熱帯収束帯とも一致すると考えられている。

・注3 熱帯擾乱:
台風などの強い熱帯低気圧と弱い熱帯低気圧など、熱帯地方の低気圧を指す。本研究では、弱い低気圧でも降水を伴うような低気圧を含めて、熱帯擾乱と定義し、主な研究対象とした。これらの熱帯擾乱は、日本まで移動して、日本にも影響を及ぼすことがある。



添付資料


参考図:現在気候実験での降水量(mm/日)と風(m/s)の分布。ベクトルは対流圏下層風を表す。日本の風上側には、熱帯モンスーン域が位置している。




詳しくはこちらをご覧下さい。

関連リンク

大気海洋研究所 プレスリリース(2020年7月21日)

東京都立大学 プレスリリース(2020年7月21日)