2020年8月20日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 佐藤 正樹教授らが発表を行い、
記事が掲載されました。
掲載内容
衛星データと計算による世界の降水予報
~理研とJAXAのwebで5日後までのリアルタイム降水予報を公開~
発表概要
理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、千葉大学環境リモートセンシング研究センターの小槻峻司准教授、東京大学大気海洋研究所の佐藤正樹教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)第一宇宙技術部門地球観測研究センターの久保田拓志主任研究開発員らの国際共同研究グループは、人工衛星による世界の降水観測データ(JAXAの全球衛星降水マップ(GSMaP))を生かした5日後までのリアルタイム降水予報を、理研の天気予報研究のウェブページ 理研天気予報研究およびJAXAの降水情報ウェブページで8月20日に公開されました。
国際共同研究グループは、JAXA地球観測研究公募などで衛星降水データを用いた地球全体を領域とする降水予測研究を行ってきました。今回、降水予測の高度化を目指し、降水ナウキャスト(注1)と数値天気予報(注2)という二つの異なる予測手法に基づいた全球降水予測システムを開発しました。さらに、この二つの予測データを統合する新たな手法を開発し、これらをリアルタイムに継続運用することで、5日後までの世界各地の降水予報を実現しました。この予報は、従来の天気予報では活用されてこなかった人工衛星による降水観測データを直接利用するもので、研究開発に着手した2013年4月以降得てきたさまざまな成果を統合した集大成となります。人工衛星による降水観測データを利用することで、地上に設置する雨量計やレーダーなどの降水観測が限られている地域を中心に、地球規模で増大している大雨や渇水などの予測情報としての活用が期待されます。今後、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて降水予報の更なる高度化に取り組みます。
・国際共同研究グループ:
理化学研究所 計算科学研究センター
データ同化研究チーム
チームリーダー 三好 建正(みよし たけまさ)
研究員 寺崎 康児(てらさき こうじ)
研究員 大塚 成徳(おおつか しげのり)
特別研究員 雨宮 新(あめみや あらた)
特別研究員(研究当時) グオ-ユエン・リエン(Guo-Yuan Lien)
(現 台湾中央気象局)
複合系気候科学研究チーム
チームリーダー 富田 浩文(とみた ひろふみ)
千葉大学 環境リモートセンシング研究センター
准教授 小槻 峻司(こつき しゅんじ)
東京大学 大気海洋研究所
教授 佐藤 正樹(さとう まさき)
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター
主任研究開発員 久保田 拓志(くぼた たくじ)
研究領域上席 沖 理子(おき りこ)
掲載論文
本研究成果は、『Weather and Forecasting』誌など計12本の論文に掲載されました。
・Otsuka, S., S. Kotsuki and T. Miyoshi, "Nowcasting with data assimilation: a case of Global Satellite Mapping of Precipitation", Weather and Forecasting
・Otsuka, S., S. Kotsuki, M. Ohhigashi, and T. Miyoshi, "GSMaP RIKEN Nowcast: Global precipitation nowcasting with data assimilation", Journal of Meteorological Society of Japan
・Terasaki, K., M. Sawada and T. Miyoshi, "Local Ensemble Transform Kalman Filter Experiments with the Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model NICAM", SOLA
・Lien, G.-Y., T. Miyoshi and E. Kalnay, "Assimilation of TRMM Multisatellite Precipitation Analysis with a low-resolution NCEP Global Forecasting System", Monthly Weather Review
・Lien, G.-Y., E. Kalnay, T. Miyoshi and G. J. Huffman, "Statistical properties of global precipitation in the NCEP GFS model and TMPA observations for data assimilation", Monthly Weather Review
・Kotsuki, S., T. Miyoshi, K. Terasaki, G.-Y. Lien and E. Kalnay, "Assimilating the Global Satellite Mapping of Precipitation Data with the Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model NICAM", Journal of Geophysical Research
・Terasaki, K. and T. Miyoshi, "Assimilating AMSU-A Radiances with the NICAM-LETKF", Journal of Meteorological Society of Japan
・Kotsuki, S., K. Terasaki, K. Kanemaru, M. Satoh, T. Kubota and T. Miyoshi, "Predictability of Record-Breaking Rainfall in Japan in July 2018: Ensemble Forecast Experiments with the Near-real-time Global Atmospheric Data Assimilation System NEXRA",SOLA
・Terasaki, K., S. Kotsuki, and T. Miyoshi, "Multi-year analysis using the NICAM-LETKF data assimilation system",SOLA
・Kotsuki, S., K. Kurosawa, S. Otsuka, K. Terasaki and T. Miyoshi, "Global Precipitation Forecasts by Merging Extrapolation-Based Nowcast and Numerical Weather Prediction with Locally Optimized Weights",Weather and Forecasting
・Miyoshi, T., S. Kotsuki, K. Terasaki, S. Otsuka, G.-Y. Lien, H. Yashiro, H. Tomita, M. Satoh, and E. Kalnay, "Precipitation Ensemble Data Assimilation in NWP Models. Satellite Precipitation Measurement",Advances in Global Change Research,Springer
・Kotsuki, S., Y. Ota, T. Miyoshi, "Adaptive covariance relaxation methods for ensemble data assimilation: Experiments in the real atmosphere.",Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society
発表者
理化学研究所 計算科学研究センター データ同化研究チーム
チームリーダー 三好 建正(みよし たけまさ)
千葉大学 環境リモートセンシング研究センター
准教授 小槻 峻司(こつき しゅんじ)
東京大学 大気海洋研究所
教授 佐藤 正樹(さとう まさき)
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター
主任研究開発員 久保田 拓志(くぼた たくじ)
用語解説
・注1 降水ナウキャスト:
観測データによる直近の降水分布の動きを捉え、それがそのまま持続すると仮定して、将来の降水分布を予測する手法。雨雲の発生や発達などの気象学的なメカニズムを考慮しないため、計算が単純で高速でできるが、予測時間が長くなると精度が急速に低下するという問題がある。
・注2 数値天気予報:
気象学的なメカニズムを考慮した物理学の方程式により、大気の状態をコンピュータの数値計算によってシミュレーションして行う天気予報。
添付資料
参考図:JAXAの降水情報ウェブページ「GSMaPxNEXRA 全球降水予報」の例。2020年7月5日22時を初期時刻とした3時間後の降水予測値の分布を表示している。「令和2年7月豪雨」に伴う大雨が九州南部で予測されている。
詳しくはこちらをご覧下さい。
関連リンク
・大気海洋研究所 プレスリリース(2020年8月20日)
・理化学研究所 プレスリリース(2020年8月20日)