2021年3月29日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 研究トピックスにて
地球表層圏変動研究センター 横山 祐典教授らが発表を行い、
記事が掲載されました。
掲載内容
過去に起こった大規模な東南極氷床融解:昭和基地周辺の湖が記録していた縄文時代の融解イベント
発表概要
東京大学大気海洋研究所のAdam Sproson特任研究員と高野淑識委託准教授(海洋研究開発機構)、横山祐典教授らの研究グループは、東南極昭和基地周辺の湖の調査により、この地域の氷床が過去のある時期に大規模に融解したことを、新たに開発した化学分析手法を用いて明らかにしました。本成果はQuaternary Science Review誌に掲載されました。
南極氷床は世界の海水準を58mも上昇させうる淡水を蓄えています。現在、その一部、西南極氷床と呼ばれている地域では融解が加速しているという観測結果が得られています。一方、日本の昭和基地が存在する東南極氷床では、比較的安定して氷床が存在すると考えられてきたため、この地域の氷床の長期的な観測については、これまで十分な知見が得られていませんでしたが、近年の西南極の融解傾向から、その挙動に関する理解が重要であると注目を集めている地域です。
そこで研究グループでは2005年12月~2006年1月の南極観測隊JARE47調査で採取された昭和基地周辺の湖の堆積物のベリリウム同位体を分析することで、かつての氷床融解の記録を復元しました。ベリリウムにはおもに2つの種類の同位体が存在します。一つは地球に飛来する宇宙線と大気との相互作用で作られるベリリウム―10ともう一つは岩石の中に存在するベリリウム―9です。グループは、この同位体のわずかな差異を、過去に遡って分析する手法を開発しました。その後、その手法を湖から採取された試料に適用することによって、およそ3,500~4,000年前に急激な融解が起こったことを発見しました。
氷床の融解のタイミングは、シングルステージ加速器質量分析装置を用いた高精度年代測定の結果から明らかになり、これが南極の他の地域からこれまで報告されていた時期と一致することがわかりました。この時期は二酸化炭素の上昇に伴う大気の温暖化は認められておらず、上空を吹く風の変化により、温度の高い海水が南極氷床沿岸近くに接近したことによるものと考えられます。風の変化はエルニーニョなど低緯度域の気候状態と密接に関連していることがわかっており、この時期の氷床融解は太平洋赤道域の変化がもたらしたと考えられます。このことは、今後も類似の現象が起こりうる可能性を示唆しています。
発表雑誌
雑誌名:「Quaternary Science Review」
対象論文:Beryllium isotopes in sediments from Lake Maruwan Oike and Lake Skallen, East Antarctica, reveal substantial glacial discharge during the late Holocene
著者:Adam D. Sproson, Yoshinori Takano, Yosuke Miyairi, Takahiro Aze, Hiroyuki Matsuzaki, Naohiko Ohkouchi, and Yusuke Yokoyama
doi: 10.1016/j.quascirev.2021.106841
雑誌名:「Rapid Communications in Mass Spectrometry」
対象論文:Initial measurement of beryllium‐9 using high‐resolution inductively coupled plasma mass spectrometry allows for more precise applications of the beryllium isotope system within the Earth Sciences
著者:Adam D. Sproson, Takahiro Aze, Bethany Behrens, and Yusuke Yokoyama
doi: 10.1002/rcm.9059
添付資料
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関連リンク
・大気海洋研究所 研究トピックス(2021年3月29日)
・東京大学 UTokyo FOCUS -Articles- (2021年3月26日)