2021年4月2日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 海洋生態系変動分野所属 堤 英輔特任助教らが発表を行い、
記事が掲載されました。



掲載内容
トカラ海峡の岩礁で生じる強力な混合と黒潮の肥沃化
~世界最大級の乱流混合・栄養塩供給のメカニズムを捉えた~


発表概要
黒潮の豊かな生態系の維持に不可欠である下層から光合成可能な表層への栄養塩供給機構を解明するため,水産研究・教育機構,九州大学,東京大学,愛媛大学,鹿児島大学および東京海洋大学の共同研究チームは,鹿児島県南方沖のトカラ海峡を黒潮が通過する際,急峻な地形により攪拌されることで,どれだけの量の硝酸塩(植物プランクトンの成長に必要な栄養塩の一つ)が光合成可能な表層へと輸送されているかを,最新の計測技術を駆使して調べました。その結果,黒潮がトカラ列島の岩礁にぶつかったときに生じる強力な乱流と湧昇効果の詳細を捉えることにより,乱流による下層から表層への硝酸塩の鉛直輸送量を正確に計測することに成功しました。計測された硝酸塩の表層への鉛直輸送量は,年間最大で1平方キロメートル当たり約 2万トン(黒潮流域の約 3千トンの魚類生産を支える値)(注1注2)と,これまで世界の海で報告された輸送量の中でも最大規模のものです(注3)。この結果は,黒潮の流路上に存在する島や岩礁・海山などの急峻な地形により引き起こされる乱流混合や湧昇による表層への栄養塩の供給が,黒潮の豊かな生態系の維持に重要な役割を果たしている可能性を示しています。


発表雑誌
雑誌名:「Geophysical Research Letters」

対象論文:How a small reef in the Kuroshio cultivates the ocean
(和訳:小さな岩礁がどのように黒潮を耕すか)

著者:Daisuke Hasegawa, Takeshi Matsuno, Eisuke Tsutsumi, Tomoharu Senjyu, Takahiro Endoh, Takahiro Tanaka, Noki Yoshie, Hirohiko Nakamura, Ayako Nishina, Toru Kobari, Takeyoshi Nagai, and Xinyu Guo

doi: 10.1029/2020GL092063


用語解説
・注1:
肥沃効果の見積もりは,計測された硝酸塩フラックスの最大値が1平方キロメートルに渡って 有光層の直下に分布していたと仮定した場合のものです。トカラ海峡には,多くの島や岩礁・海山など が分布することから,海域全体では,今回の見積もり以上の肥沃効果があると考えられます。

・注2:
観測された硝酸塩フラックスから魚類の生産量を見積もるためには,様々な仮定が必要となり ます。また,この見積もりは,仔稚魚の初期減耗率などを考慮していないなど,極めて簡略化されたも のであり,漁獲対象となる成魚の資源量や漁獲量とは異なります。

・注3:
世界の海洋のうち,ペルー沖やカリフォルニア沖などの大洋の西岸域では沿岸湧昇が発達し, 下層から表層への栄養塩供給により生産力の高い海域となっています。活発な沿岸湧昇域での下層水の 上昇速度(〜5m/day)および下層の硝酸塩濃度(約30mmol/m3)から,湧昇域での硝酸塩の鉛直輸送量を見積もると150mmol/m2/dayとなり,これを1平方キロメートルあたりの年計の値に直すと約3400トンとなります。本研究で得られた値(2万トン)はこれを上回っています。


添付資料


硝酸塩濃度計を搭載した乱流計による観測値の例。黒色の線は乱流による流速の微細な変動。
変動の幅が大きいほど乱流強度が強いことを示している。
桃色,緑色,赤色の線は,それぞれ,乱流の強度,硝酸塩濃度 および硝酸塩乱流拡散フラックスを表す。



詳しくはこちらをご覧下さい。

関連リンク

大気海洋研究所 プレスリリース(2021年4月2日)

水産研究・教育機構 プレスリリース(2021年3月26日)