2021年8月23日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 阿部彩子教授,横山 祐典教授,羽角 博康教授らが発表を行い、記事が掲載されました。



掲載内容
南大洋の温暖化が引き起こした氷期における大西洋深層循環の急激な変化


発表のポイント
◆大西洋深層循環の変化は、氷期における急激な気候変動を引き起こしたと考えられていますが、南大洋の温暖化がその引き金となっていた可能性を指摘しました。

◆大西洋深層循環は南半球から北半球への熱輸送を通じて、地球上の気温分布をコントロールしている一方、南大洋での温暖化が大西洋深層循環の急激な変化につながりうることを、海洋モデルシミュレーションにより明らかにしました。

◆本研究の成果は、氷期における急激な気候変動をはじめとする数百~数千年の時間スケールで生じる気候変動の仕組みの理解に貢献するものです。


発表概要
海のコンベアベルトとも呼ばれる海洋深層循環は、海洋の表層と深層をつなぐ地球規模の循環であり、千年程度の時間をかけて世界中の海を巡っています(図1)。大西洋北部は海洋深層循環の沈み込み域にあたり、大西洋における海洋深層循環(以降、大西洋深層循環)は、その北向きの熱輸送を通じて気候に大きな影響を与えています。そのため、大西洋深層循環は数百~数千年の時間スケールでの気候変動を引き起こす最も重要な要素となります。実際、今から約10万〜2万年前の最終氷期には、ダンスガード・オシュガーイベント(注1)と呼ばれる急激な気候変動が何度も起こっていたことが知られていますが、それらは大西洋深層循環の急激な変化によって引き起こされたと考えられています。しかしながら、大西洋深層循環の急激な変化がどのような仕組みで起こったのかについてはまだ良く分かっていません。東京大学大気海洋研究所の岡 顕准教授らは、海洋大循環モデルによる数値シミュレーションにより、氷期における大西洋深層循環の急激な変化を引き起こす仕組みとして、南大洋での温暖化がその引き金となりうる可能性を指摘しました。本研究は、氷期における急激な気候変動についての新たな知見を与えるものであり、数百〜数千年の時間スケールで生じる気候変動の仕組みの理解にも貢献する成果です。



発表雑誌
雑誌名: Communications Earth & Environment

論文タイトル: Glacial mode shift of the Atlantic meridional overturning circulation by warming over the Southern Ocean

著者: Akira Oka, Ayako Abe-Ouchi, Sam Sherriff-Tadano, Yusuke Yokoyama, Kenji Kawamura, Hiroyasu Hasumi

doi: https://doi.org/10.1038/s43247-021-00226-3


用語解説
・注1:ダンスガード・オシュガーイベント(Dansgaard-Oeschger event)
グリーンランドの氷床コアデータにより発見された氷期における急激な温暖化イベント。最終氷期には20回以上のイベントが発生しており、大きな温暖化イベントでは10年程度の期間に10度を超える気温上昇が起こっていた。


添付資料


図1.海洋深層循環の模式図。青色が深層、赤色が表層での流れを示しています。大西洋北部は海洋深層循環の沈み込み域となっています。大西洋深層循環は、大西洋における表層での北向きの流れ(赤矢印)と深層での南向きの流れ(青矢印)から成る循環のことを指します。





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関連リンク

大気海洋研究所 プレスリリース(2021年8月24日)