2021年9月10日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 横山祐典教授らが発表を行い、記事が掲載されました。



掲載内容
二酸化炭素の海洋への取り込みに重要なプランクトン量の変化と南極の海氷変化
〜11,400年間の記録に基づく数年から十年スケールの気候変動の影響評価〜


発表のポイント
◆南極海は、大気中の二酸化炭素濃度変化をひきおこす地球表層の炭素循環において大きな役割を持っています。

◆本研究は、二酸化炭素の海洋への取り込みに大きな役割を果たしている南極海の変化が、十年スケールの気候変動と密接に関係があることを過去11,400年間の記録から明らかにしました。

◆本研究は、南極海の海氷が将来減少すると予測されている中で、南極海がエルニーニョなどの気候変動の影響を敏感に受けやすくなることを示唆しています。


発表概要
南極の沿岸海域は海氷(注1)の変化と連動した生物および海洋システムの複雑な関係で特徴づけられる海域です。この海域は南極底層水の形成海域であり、世界の気候および環境変動に影響を与える海洋大循環(注2)と関係しています。さらに、この海域の高い生物生産性は、大気二酸化炭素の濃度変化をひきおこす地球規模の炭素循環にも大きな影響を与えています。プランクトンがどれくらい増殖(ブルーム)するかは、大気からの二酸化炭素の除去に影響を与えるのみならず、鯨をトップとする海洋生態系の維持にも重要です。プランクトンのブルームは、南極大陸沿岸域の風の変化をとおして、海氷の生成や移動、並びに、海洋深層からの栄養塩の供給によって変化します。南半球高緯度の風の変化はエルニーニョ南方振動(ENSO)などといった中緯度―低緯度の大気海洋現象とも密接に関連していることがわかっています。しかし、中―長期的な変化についての情報はデータが限られているため、いまだに関連性がよくわかっておらず、将来的にどう変化するかなどについても議論が分かれています。

そこで、東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授は、名古屋大学の山根雅子研究員(研究当時:東京大学大気海洋研究所博士課程学生)、ニュージーランド ビクトリア大学ウェリントン校のジョンソン博士やマッカイ教授らのグループ、そして米国スタンフォード大学のダンバー教授らが率いる国際研究チームとともに、東南極ウィルクスランド地域沖合(図1)のアデリー海盆において採取された170mの堆積物を調べました。その結果、過去11,400年間において、南極海の生物ブルームは海氷の変動を強く反映して変化していることが確認され、当初は毎年起こっていたブルームが2-7年の間隔に変化したことが明らかになりました。

今回の研究で得られた結果は、温暖化の進行により海氷が減少することが予測されている南極海の変化について、将来の炭素循環や生物応答など、予測を行うモデルの精度向上などに貢献するための重要な知見となります。



発表雑誌
雑誌名: Nature Geoscience

論文タイトル: Sensitivity of Holocene East Antarctic productivity to subdecadal variability set by sea ice

著者: Katelyn M. Johnson, Robert M.McKay, Johan Etourneau, Francisco, J. Jimenez-Espejo, Anya Albot, Chiristina R.Riesselman, Nancy A.N.Bertler, Huw J.Horgan, Xavier Crosta, James Bendle, Kate E. Ashley, Masako Yamane, Yusuke Yokoyama, Stephen F. Pekar, Carlota Escutia and Robert B.Dunbar

doi: https://doi.org/10.1038/s41561-021-00816-y

・関連文献1: Yokoyama, Y., et al.(2016) Proceedings of the National Academy of Science, volume 113, pages 2354-2359
doi: https://doi.org/10.1073/pnas.1516908113

・関連文献2: Yamane, M., et al. (2011) Journal of Quaternary Science, volume 26, pages 3-6
doi: https://doi.org/10.1002/jqs.1465

・関連文献3: Sproson,A.D., et al. (2021) Quaternary Science Reviews, volume 256, 106841
doi: https://doi.org/10.1016/j.quascirev.2021.106841


用語解説
・注1:海氷
海水が凍った氷のことを海氷と呼びます。海水中の塩分は氷に取り込まれないため、海水の塩分は周囲より濃度が高くなり、高密度となるために沈み込みやすくなります。

・注2:海洋大循環
北大西洋を起源とする一周が約1,000年の循環。海水の塩分と温度差によって駆動されています。熱塩大循環とも呼ばれています。現在北大西洋で毎秒約2000万m3の海水が沈み込むことで、高緯度に熱を運び、温暖な気候が保たれていると考えられています。



添付資料


図1.東南極ウィルクスランドの沖合の様子(山根雅子研究員 撮影)。





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関連リンク

大気海洋研究所 プレスリリース(2021年9月10日)