2021年9月21日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 横山祐典教授らが発表を行い、記事が掲載されました。
掲載内容
富士五湖の水はどこからきているか? 〜炭素14をトレーサー(追跡子)とした検討によって、河口湖では御坂山地の地下水による影響を確認〜
発表のポイント
◆富士五湖で各々の湖水の炭素14(14C)濃度(注1)測定を毎月1年間、世界最高頻度で実施し、広域的な地下水の値と比較して、湖沼水のトレーサーとしての可能性を検討した。
◆その結果、河口湖の14C濃度は他の湖に比べ極端に低く、河口湖の湖水は御坂山地の地下水による影響が大きいことが初めて定量的に示された。
◆本研究の成果は、古環境研究における14C年代測定の高精度化に寄与するほか、世界文化遺産を構成する富士五湖周辺域の環境研究においても有用な情報を提供する。
発表概要
東京大学大気海洋研究所の太田耕輔氏(博士課程学生)、横山祐典教授、宮入陽介特任研究員、宮島利宏助教、山梨県富士山科学研究所の山本真也研究員らは、富士五湖のうち、本栖湖・西湖・河口湖・山中湖の湖水・地下水の14Cの測定を行いました。加速器質量分析(注2)とボックスモデル(注3)を用いた解析により、富士五湖における地下水の寄与率を推定しました。富士五湖は富士山と御坂山地に囲まれており、複雑な地質から地下水の定量的な研究が限られていました。そこで湖水・地下水の溶存14Cが水の起源に敏感に応答することから、これまでにない高精度・高頻度な測定を行いました。その結果、地下水の14C濃度が採水地点によって大きく異なることが明らかになり、河口湖の湖水は御坂山地の地下水による影響が大きいことが示されました。今後調査を続けることで、富士五湖における湖水の由来をより正確に明らかにできると考えられます。
さらに、夏季の生物生産増大によって湖水の14Cが湖底堆積物に取り込まれている可能性が明らかになりました。古環境研究で広く用いられる堆積物の14C年代測定では、炭素レザボア効果(注4)を考慮する必要があります。今回の研究結果は古環境研究における14C年代測定の高精度化に貢献する成果です。
発表雑誌
雑誌名: Elementa: Science of the Anthropocene
論文タイトル: Lake water dissolved inorganic carbon dynamics revealed from monthly measurements of radiocarbon in the Fuji Five Lakes, Japan
著者: Kosuke Ota*, Yusuke Yokoyama*, Yosuke Miyairi, Shinya Yamamoto, & Toshihiro Miyajima
doi: https://doi.org/10.1525/elementa.2020.00149
用語解説
・注1:炭素14(14C)濃度
炭素の質量数14の放射性同位体(14C)を用いて水や有機物などの試料を測定する手法です。湖水・地下水は溶存無機炭素として14Cを含んだ炭素を取り込みますが、大気から隔離された段階で、14C濃度が減り続けます。そのため、水の14C濃度を調べることで水の由来を推定することができます。
・注2:加速器質量分析
14Cは、地球表層に1兆分の1以下と極めて少ない量しか存在しません。そのため、測定の妨害となる核種を取りのぞくために、加速器質量分析器が用いられます。本研究で用いたシングルステージ型加速器質量分析器は日本で唯一の装置となります。
・注3:ボックスモデル
ボックスモデルとは、自然界の空間を種類によっていくつかの系(≒箱)に分割し、箱同士の物質の移動を模したものです。環境システムや生態系,海洋循環や炭素循環の研究などに広く用いられています。本研究では、系を湖水・降水・地下水の3つに分割し、解析を行っています。
・注4:炭素レザボア効果
14C年代測定では、生物活動や化学反応を通じて堆積物が生成年代よりも古い14C年代を示す現象が知られています。湖沼では土壌や地下水によってもたらされる炭素レザボア効果の地域差が顕著であり、地下水や湖水について詳細な検討が必要とされています。
添付資料
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関連リンク
・大気海洋研究所 プレスリリース(2021年9月21日)