2023年3月1日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 岩崎 渉教授らが発表を行い、記事が掲載されました。



掲載内容
魚類の生態・進化・環境DNA研究を加速するデータプラットフォーム 
――「MitoFish Suite」の機能強化――

発表概要
東京大学 大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻/大気海洋研究所附属地球表層圏変動研究センターの岩崎渉教授を中心とする共同研究チームは、10年以上開発を継続している魚類のミトコンドリアDNAデータに特化したデータプラットフォーム「MitoFish Suite」の大幅な機能強化を行いました。

魚類は世界に34,000種以上生息するとされ、ヒトを含む全脊椎動物の約半数を占めます。赤道域から両極域、川から深海まで、地球上のあらゆる水圏に進出した生物群であり、その中には、水産資源として人間の生活と密接に関連する種や、人間活動の影響で絶滅の危機にある希少種・地域固有種が多く存在します。このことから、魚類の遺伝的多様性を分析・評価することや、環境DNAに基づいて魚類相を網羅的に分析することは、基礎科学的にも社会的にも重要です。魚類の遺伝的多様性を分析する情報源としては、従来からミトコンドリアゲノムが多用されており、現在まで多くのデータや知見が蓄積されてきました。

本共同研究チームは、MitoFish Suiteを開発・構築し、10年以上にわたって機能強化を行いながら、世界のデファクトスタンダードの地位を築いてきました。本論文では、最新のアップデートおよび機能強化の成果を報告しています。現在、ミトコンドリアゲノムデータベースMitoFishは魚類約3,500種のミトコンドリアゲノム情報を、魚類環境DNA解析パイプラインMiFish Pipelineは魚類約10,000種のMiFish Primer領域の配列データを含みます。さらに、ミトコンドリアゲノム解析機能や環境DNAデータ解析機能を高速化し、デノイジング機能などによる高精度な解析機能を実装したほか、サンプル間の比較分析機能や、インターフェースの改善なども行いました。特にMiFish Pipelineについては、デノイジングを行う解析プログラムを新たに追加することで、解析結果の感度を増強することに成功しました。これにより、MiFish Pipelineが提供しているサンプルデータから、新たに2種の魚類を検出することに成功し、うち1種は絶滅危惧Ⅱ類に指定される希少種でした。

今後、MitoFish Suiteは、ミトコンドリアゲノム情報に立脚した魚類の生態や遺伝的多様性に関する研究を、生命情報科学の側面から今後もさらに強力に推進することが期待されます。生物学がビッグデータ時代を迎えるなか、計算機の使用に親しみのない研究者や潜在的ユーザーにとっては、データ解析のハードルが高くなりつつあります。MitoFish Suiteは、コマンド入力操作を必要としないウェブツールとしてデータ解析やデータベース検索を可能にすることから、生物学や水産学のみならず、環境生態学や水利工学など様々な分野における魚類ミトコンドリアゲノムデータや環境DNA解析の活用をサポートし、さらに促進すると期待されます。


発表雑誌
雑誌名:Molecular Biology and Evolution

論文タイトル:
MitoFish, MitoAnnotator, and MiFish Pipeline: Updates in ten years

著者:
Tao Zhu, Yukuto Sato, Tetsuya Sado, Masaki Miya, Wataru Iwasaki

doi: https://doi.org/10.1093/molbev/msad035



添付資料



魚類ミトコンドリアDNAデータプラットフォーム「MitoFish Suite」コンセプト図




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関連リンク

大気海洋研究所 プレスリリース(2023年3月1日)