2023年6月30日 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 プレスリリースにて
地球表層圏変動研究センター 横山祐典教授らが発表を行い、記事が掲載されました。
*印が本研究で新たに明らかとなった未知の噴火
掲載内容
山中湖の湖底堆積物から明らかとなった富士山噴火史 ―5050~3900年前の未知の噴火を新たに6つ発見―
発表のポイント
◆山中湖の湖底堆積物から過去8000年間の富士山の噴火履歴を復元
◆富士山北東麓では5050年前から3900年前にかけて、未知の噴火が少なくとも6回発生
◆過去の富士山の火山活動を評価する上で、火山防災上重要な新知見
発表概要
東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授、山梨県富士山科学研究所の山本真也主任研究員らによる研究グループは、山中湖の湖底及び湖畔から採取した過去8000年に及ぶ堆積物の放射性炭素年代測定を行い、過去の噴火で噴出した富士山の降下火砕物(テフラ)の詳細な堆積年代を明らかにしました。更に、過去に論文等で報告されたテフラの堆積記録との比較から、富士山北東麓では5050年前から3900年前にかけて、これまで報告されていない噴火が少なくとも6回発生していたことが明らかとなりました。本研究の成果は、従来の研究がこの時期の富士山の火山活動を過小評価していた可能性を示しており、火山防災上重要な新知見となるものです。
発表内容
【研究の背景】
信頼性の高い噴火記録は、将来の噴火予測や実効性の高い火山防災対策を策定する上で極めて重要です。中でも広範囲に分布する降下火砕物(以下、テフラ)の解析は、過去の噴火の規模や頻度を推定する上で不可欠です。富士山ではこれまで多くの火山学的研究が進められてきましたが、陸上では侵食や土壌の発達により必ずしも全てのテフラ層が連続的に残されているわけではないという問題があり、研究の障害となっていました。そこで本研究では、富士山のテフラが連続的に堆積している富士五湖の湖底堆積物に着目し、噴火履歴の検討を行いました。
【研究の内容】
本研究では、富士五湖の中でも最も多くのテフラ層が残されている山中湖の湖底堆積物(山梨県が1998年に採取したボーリングコア; 図1)を対象に、その放射性炭素年代を詳しく調べることで過去8000年間に堆積したテフラの年代を平均誤差±80年の精度で明らかにすることに成功しました。また同時に、山中湖湖畔(図1)でも重機による陸上掘削調査(図2)を行い、これらの研究結果を合わせて既報研究との比較を行ったところ、5050年前から3900年前にかけて従来報告されていない未知のテフラが少なくとも6層含まれていることが明らかとなりました(図3)。また、山中湖では約1200年前の鷹丸尾溶岩の堰き止めに伴い水位が上昇し、現在の形となったことが再確認されました。
【今後の展望】
本研究の成果は、従来の陸上調査のみに基づく研究が、富士山北東麓におけるテフラの分布範囲や噴火頻度を過小評価していた可能性を示しており、火山防災上重要な新知見と位置付けられます。今後、今回新たに見つかったテフラの解析を進めることで、富士山の噴火履歴の高精度化がより一層進むことが期待されます。
発表雑誌
雑誌名:Quaternary Science Advances
論文タイトル:
Eruptive history of Mt. Fuji over the past 8000 years based on integrated records of lacustrine and terrestrial tephra sequences and radiocarbon dating
著者:
Shinya Yamamoto*, Nobuko Kametani, Mitsuhiro Yoshimoto, Yosuke Miyairi, Yusuke Yokoyama
doi: https://doi.org/10.1016/j.qsa.2023.100091
添付資料
図1.堆積物コア採取地点(YA-1)と陸上掘削調査地点(MF20-01)
図2.山中湖湖畔での陸上掘削調査の様子(2020年11–12月)
図3:山中湖の堆積物コアと湖畔の陸上セクションから得られたテフラの噴火履歴の比較
関連リンク
・大気海洋研究所 プレスリリース(2023年6月30日)