東京大学大気海洋研究所
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進学希望者へ

ガイダンス、インターンシップ等

進学希望者はガイダンスやインターンシップを通じて、ぜひ研究室の活動を実体験してください。随時、訪問、面談も受け付けています。

研究テーマ

私の研究室では、大気大循環からメソ気象まで、大気現象の変動や変化のメカニズムを理解するために、主として数値モデルを利用した理論的なアプローチを目指しています。

次のようなキーワードの研究を行っています。

具体的な学生のテーマについては、研究室のページ を参照ください。

研究室を選ぶときのポイント

研究室を選ぶときのポイントとして次のようなことを考えるとよいでしょう。

研究室の配属を決める際には、研究手法について、特にモデリングか、解析か、あるいは観測をやりたいのかきかれます。大気海洋の研究では純粋な理論的研究を行う余地が少くなっており、数値モデルを使った研究を行うケースが多いためです。モデリングの中でも、自分で数値モデルを作ることに興味があるのか、すでにある数値モデルを使って特定の現象のシミュレーションを行うのか、アプローチにはいろいろあります。最近では、解析や観測がメインの研究者でも手軽に数値モデルを動かすことができるので、どのような手法の研究にせよ数値モデルにはいずれ何らかの形で関ることになるでしょう。数値モデルはあらゆる研究の基礎ともいえるので、数値モデルを基礎から理解して、自由自在に使うことができるようになれば、どのような対象の研究でも柔軟に対応できるようになるでしょう。

大気海洋研究所気候システム系では、モデルについて全て自分たちで作り上げることを信条としています。モデルの隅々まで詳細について熟知していないとモデルの限界やパフォーマンスを理解することができないからです。

地球温暖化に興味がある方は、全球的な気候、大気大気循環が対象になりますが、最近ではメソ循環から全球大気大循環までを丸ごと考えようという方向に進んでいます。メソ循環としての積雲対流が組織化して、大規模なハドレー循環やモンスーン循環を形成しています。当研究室では、全球的な大気大循環や気候を考えることを目標にしますが、この目標のためのメソ循環の研究を活発に進めています。台風や積雲クラスター、雲微物理、衛星データによる雲検証など、また全球雲解像モデルによって、メソ循環から大循環までを同時にシミュレートし、その結果を解析しています。このようなマルチスケールの理解が、例えば将来気候において台風が強大化するのかどうかという問題に 必要になります。台風やメソ研究を行いたい方、特に全球や気候との関わりの文脈で考えたい方は、当研究室をお勧めします。

要約すると、次のような指向の方を歓迎します。

どう研究をすすめるか、何が学べるか

私の研究室に入った学生の研究テーマは、できるだけ自分の希望・考えで提案してもらいますが、私との相談で徐々に具体的なテーマを絞り込んでいきます。研究の方向性を決めたら、関連論文を読んで、過去の研究のレビューや追試を行ってもらいます。その際、できるだけ関連論文を網羅的に読むように指導しています。関連する研究の論文は全て読むという心構えが必要です。ただし、昔と違って、最近は論文の数も膨大なので、論文を選んで読む技量も必要になっています。論文の善し悪しを見極める技量を身につけることも、訓練のうちです。

私の研究室では、修士の学生はできるだけ自分でテーマを探すように指導しますが、随時相談にのります。私の方からも、関連するホットなテーマや、実現可能なテーマなどについてアドバイスします。だいたい修士1年かけて希望する関連研究を調査して、研究テーマを具体的に絞り込むことを目標とします。2年目に向けて研究計画を立てることができれば、それに従って研究をすすめるだけです。実際には、スケジュール通り進むことは希ですが、最終的には2年目の後半半年に研究は加速度的に進展します。恐らく、修士で入る学生のほとんどの方は研究の経験がないと思いますが、修士2年目の後半、あるいは修士論文を仕上げる段階で研究の面白さがわかるようになってきます。研究というのは、誰もやったことがないことをするものので、修士2年で誰も見たことのない高みに上ることができます。

本研究所気候システム系の研究室のほとんどは、モデリングを意識した研究をしています。研究の最初の段階から数値モデルが使えると研究の幅が広がります。私の研究室では、全球非静力学モデルNICAMを開発してきたため、学生にはNICAMを使うことを勧めています。自前で開発したモデルについては、隅々まで知り尽くしており、さまざまなノウハウが蓄積されているからです。NICAMは、全球非静力学実験だけでなく、メソ対流をシミュレートするための領域モデルとしても使え、またさまざまな理想実験も可能です。全球的な大気大循環、メソ循環、あるいはLESまでを一つのモデルでカバーできるので、NICAMを使うことでいろいろなアイデアを試すことができます。例えば、台風やメソ対流を研究したい方は、興味ある現象を手っ取り早くシミュレーションを行うことが可能です。 論文を読んで他の研究をレビューしつつ、自分でも数値モデルを使って追試や試行実験を行うことが望ましいです。私の研究室では、大学院で何か技量を身に付けることを指導しています。例えば、モデリング、解析手法、多量なデータ解析について、モデルやツールを自前で作ることを奨励します。数値モデルのユーザーのまま大学院を終えると、その後の発展性が制約されていましますので、簡単なモデルでもよいのでどこかの段階で取り組むとよいと思います。大規模な数値モデルを開発するのは一人では無理ですが、軸対称モデルや PV-inversion 手法などの診断ツールなどは自分で作成すると大いに力になります。

気象学の勉強について、なかなか講義だけでは網羅的に学ぶことが難しくなっています。やはり、学生には気象力学の基礎を抑えることを進めます。伝統的に James Holton 著の"An Introduction to Dynamic Meteorology"はお勧めですので、M1くらいまでには読書会等で読むようにするべきです。大気海洋研では、M1を対象に読書会を毎年開催しています。研究テーマを数値モデリングに選ぶ方はなかなかいませんが(5年に一人くらいでしょうか)、モデルを使う研究をする人は数値モデルについての基礎を学ぶべきでしょう。Durran の "Numerical Methods for Fluid Dynamics: With Applications to Geophysics" はよく読まれています。自著の "Atmospheric Circulation Dynamics and General Circulation Models" も、力学・大循環・数値モデリングまでを幅広く解説しているのでお勧めです。実際、この本は私が大学院生時代に学んだセミナーノートを主体としたもので、大循環を研究するために一通り学ぶべき基礎をまとめたものと考えています。

メソを研究したい人は毎年多いのですが、より広い文脈の中で理解する試みをして欲しいと思います。地球全体の大気大循環の中での役割、温暖化等の気候変動における変化、あるいは災害・防災など、メソ現象の科学的・社会的重要性はますます高まっています。 「個別の現象(XX台風や△豪雨)のメカニズムの原因を解明する」というのは手っ取り早い研究テーマですが、たとえばそのような現象が温暖化によって増えるのか、どれだけ一般性のある現象なのかなど、視点を拡げてテーマを捉えるような視点をもつとよいと思います。また、今日、メソの研究には数値モデルを使うことがほとんどですが、その現象の再現性には雲や乱流等の物理過程が重要な役割を果たしますので、物理過程についての理解も必要です。

柏キャンパスは魅力的か?ということを心配する学生も多いようです。はじめから修士課程で卒業して社会に出ることを考えている人は、柏キャンパスに通いながらの就職活動を不安に思うかもしれません。都心の刺激ある場所の方がよいと思う人も多いでしょう。我々研究者は、必要とあれば世界どこにでも行くし、相手とする研究者も global なので、東京近辺の数十キロの違いを云々することはあまりにも矮小な議論に思えます。大気海洋研究所の研究環境は抜群です。大気海洋だけでも優れた教員が10名ほどいて、皆学生の教育に熱心で、他の研究室の教員からも厳しく鍛えられます。皆、国内でも国際的にも第一線で活躍しており、さまざまな研究プロジェクトをリードしているので、大気海洋研で研究を続けていれば世界のトップに立つことが可能です。大学院の在学中、あるいは学位取得後、海外の研究機関で学ぶ機会も十分にあります。その際には、我々教員のコネクションが重要になります。我々の研究所を巣立って海外で活躍される方も多くいます。

これからの気象学の研究の方向性として、 「日本の気象学の現状と展望」という解説が、日本気象学会の刊行雑誌「天気」に掲載されました(2014年3月号)。研究室や研究テーマを選ぶ際の参考になるかもしれません。

私自身は2018年より海洋大気力学分野に異動し、研究室も気候システム系の教員が在籍する総合研究棟から大気海洋研究棟に移りました。大気海洋研究所の同じ教員として、引き続き、気候システム・大気海洋物理関係の先生と連携をとっており、学生にも合同のゼミに参加を奨励しています。学生は定期的に開催されるセミナー気候コロキウム海洋大気力学セミナーに参加し、研究の進捗や関連研究の発表を行っていただきます。

海洋大気力学分野では、伝統的に日本付近のメソ現象の研究に力を入れています。気象庁・気象研究所との連携研究も活発で、メソを含めた予測研究について、同化やモデル開発等のより実践的な研究も視野に入ってきています。このような関連研究に興味がある方はご相談ください。

追記:最近の状況(2023年時点)

最近の活動の一端です。国内外のさまざまな研究活動に関わって、最先端の研究を学生・研究員の研究教育に活かしています。

研究内容例

私の研究室では、大気大循環はもとより、メソ対流システムや台風についても研究をすすめています。気候変化に伴って台風の発生や強度がどのように変化するかというのは社会的にも極めて重要な問題です。現在の気候予測シミュレーションにはまだまだ不確定性があり、全球雲解像モデルを用いてより精度の高い予測ができないか研究を進めています。また、季節予報には熱帯の降水系の数10日程度の季節内変動が重要な役割りを果しています。このような熱帯の降水系の正確な予測のための研究も大きな研究テーマです。新しい数値モデル「全球雲解像モデル」(NICAM)の開発を進めています。 これにより、地球全体の大気の流れを数kmスケールの雲まで分解して理解しようと試みています。

私は本来、大気力学が専門で、地球全体をまるごと理解する方法を模索しています。そのためのキーワードが雲です。 道具立ては数値モデル, 自分で数値モデルが作れるようになることが目標です。もちろん紙と鉛筆の理論と現象の把握のためのデータ解析も必要になります。

NICAMで再現した全球の雲分布 (by H.L.Tanaka, Tsukuba Univ.)
NICAMで再現した全球の雲分布 (by H.L.Tanaka, Tsukuba Univ.)
全球雲解像モデル水惑星実験で再現したマルチスケール対流 (by H.Tomita)
全球雲解像モデル水惑星実験で再現したマルチスケール対流 (by H.Tomita)
全球雲解像モデル NICAM の格子配置
全球雲解像モデル NICAM の格子配置

主要論文・著書

最新の文献は論文リストのページをご覧ください。